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特集|徹底検証!ヨーロッパ・アルプスと日本アルプスの景観の違い Contents ヨーロッパ・アルプスの氷河(スイス ゴルナーグラード氷河)

テーマ[1]ヨーロッパアルプスに氷河が発達する訳
テーマ[2]アルプスの放牧地と日本アルプスの森林

世界的な名峰マッターホルンや最高峰モンブランを始め、4,000m級の山々が連なるヨーロッパ・アルプス。白銀の嶺々と山麓の花咲く牧草地、荒々しい氷河やコバルトブルーの湖は山好きな人なら誰でも一度は行ってみたい憧れの場所。
同じ温帯でも日本のアルプスと、どうしてここまで景色が違うのか気になったことはありませんか?今日は、その秘密に、主に気象の面から迫ります。まずは、両者の最大の違い、氷河がヨーロッパ・アルプス(以下アルプス)にはあって、日本アルプスにはない秘密に迫ってみましょう。

テーマ [1]ヨーロッパ・アルプスに氷河が発達する訳

<図1>日本とヨーロッパの緯度の違い

<図1>日本とヨーロッパの緯度の違い

■日本とヨーロッパ、どちらが北?

まず、ヨーロッパと日本の位置を比べてみましょう。 図1を見ますと、ヨーロッパと日本の緯度の違いに気がつくと思います。ロンドンの緯度はサハリン北部に位置し、ストックホルムやヘルシンキなどの北欧の首都は、シベリアと同緯度になります。また、東京はヨーロッパの南端、スペインのジブラルタルやシチリアのさらに南にあるマルタ島とほぼ同じ緯度になります。このように、ヨーロッパは日本よりかなり北に位置していることが、アルプスに氷河があって日本アルプスにはない大きな理由のひとつです。


■山の高さによる気温の違い

アルプスは西に行くほど高度を上げ、西部では4,000mの山が連なりますが、日本アルプスはせいぜい3,000m級です。もっとも高い北岳でも3,192mと、アルプス最高峰モンブラン(4,807m)よりも約1,500mも高度が低いのです。一般に高度が1km上がるにつれて気温は約6度下がると言われていますから北岳とモンブランは単純に計算すると、約9度も違うということになります。これが、アルプスと日本アルプスの氷河の有無に影響を与えていますが、日本アルプスと高度がほぼ同じ東部アルプスの3,000m級の山岳にも日本にはない氷河があります。これは何故でしょうか?

アルプスの地形

アルプスの地形

■大西洋が生んだヨーロッパの気候

<図2>

<図2>

アルプスは西にメキシコ湾流と呼ばれる暖かい海流(暖流)が流れる大西洋をひかえ、ここから温暖で湿潤な空気が流れ込むために、西に行くほど温暖で湿潤な気候となっています(図2参照)。従って、アルプスの麓にあるスイスの首都ベルンは稚内より北にあり、標高も稚内より約500m高いにも関わらず、冬季は稚内よりずっと温和な気候となっています。しかし、夏季においては大陸が暖まりやすく、海は暖まりにくい性質から大西洋は暖まった大陸よりも温度が低く、海からの涼しい西風の影響で気温があまり上がりません。従って、ロンドンの8月の平均気温は16.8度、チューリッヒ(スイス)で17.7度と東京の27.1度や松本(長野県)の24.3度に比べるとかなり低いことが分かります。


■緯度による夏の暑さの違い

夏になると、上層を流れる偏西風が日本のはるか北まで北上し、日本付近は太平洋に中心を持つ亜熱帯の高気圧(太平洋高気圧)に覆われます(図3参照)。この高気圧は日本の南の海上で育った高気圧なので暖かくて湿っており、そのために日本の夏は蒸し暑くなります。この高気圧に覆われている間は気温が上がり、アルプスの3,000m級の山でも日中は15度を超える日が続きます。当然、降ったとしても雪にはならず、雨になります。雪の降らない期間が日本アルプスの場合、約4ヶ月近くもあります。

これに対し、緯度の高いヨーロッパ・アルプスは、夏でも偏西風が上層を流れており、この流れによって低気圧や高気圧が頻繁に通過します(図4参照)。このため、周期的に天候が変化し、低気圧が通過した後は冷たい空気が入ってくるため、山では夏でも雪が降ります。筆者も8月に標高3,100mの山上ホテル、ゴルナーグラートで吹雪に遭遇したことがあります。そして、このようなときは麓の町でも驚くほど気温が下がり、パーカーやジャケットが必要なほどです。緯度の高いヨーロッパ・アルプスで夏にも日本の春や秋と同じような気候が現れるのです。

<図3>夏の日本付近の気圧配置と風の流れ

<図3>夏の日本付近の気圧配置と風の流れ

<図4>夏のヨーロッパの気圧配置と風の流れ

<図4>夏のヨーロッパの気圧配置と風の流れ

夏の立山連峰。稜線には雪がない。

夏の立山連峰。稜線には雪がない

夏でも降雪に見舞われるヨーロッパ・アルプス

夏でも降雪に見舞われるヨーロッパ・アルプス

しかしながら近年、温暖化の影響で例年はアフリカ大陸から地中海にある亜熱帯高気圧が北上してアルプス方面に張り出すことが多くなってきたために、記録的な猛暑に襲われることも多くなりました。これがヨーロッパ・アルプスの植生や生態系に大きな影響を与えています。

■冬季の降雪量は日本アルプスに軍配!

一方で日本アルプスには雪渓があります。特に北アルプスには、氷河にあと一歩でなり損ねた程の大きな雪渓が存在し、これが独特の美しい景観を作っています。4ヶ月もの間、雪が降らず、しかもこの期間に梅雨や台風などによる多量の雨が降るのにも関わらず、大きな雪渓が残るのは何故でしょうか?
それは、冬季に多量の降雪があるからです。日本列島は冬になると、西高東低型と言われる気圧配置が多くなり、シベリアから非常に冷たくて乾燥した空気が日本海を渡ります。日本海は対馬海流という暖流が流れているので冬でも水温は比較的高く、シベリアからの冷たい空気は下から暖められて大気の状態が不安定となり、雲が発生するのです。これが日本アルプスにぶつかると上昇気流が強化されて雲が発達し、強い雪を降らせます(図5参照)。このために、北アルプスや日本海側の山では連日、吹雪となり積雪が増えます。特に山頂や稜線の風下側の谷筋では風上側の積雪が吹き飛ばされて雪が吹き溜まることと、雪崩によって雪が溜まっていくことから積雪量が非常に多くなり、夏でも消えずに雪渓として残るのです。

<図5>日本海側で雪が降るしくみ

<図5>日本海側で雪が降るしくみ

日本三大雪渓のひとつ、剣沢雪渓

日本三大雪渓のひとつ、剣沢雪渓

アルプスでは、冬季にそこまでの雪は降らないため、もし夏に雪が降らなければ氷河はどんどん融けていきます。 従って温暖化の影響で夏の降雪量が激減している昨今、標高の低い地域から氷河は急激に減少してきています。

ヨーロッパ・アルプス最長のアレッチ氷河

ヨーロッパ・アルプス最長のアレッチ氷河

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テーマ[2]アルプスの放牧地と日本アルプスの森林

■クライマーとハイカーの境界線

アルプスの特徴として、ロープを使った困難な登攀を必要とする、一般の人が踏み込めない領域と、誰もが気軽にハイキングできる山麓のアルプとがはっきりと分かれています。それは、アルプスの高峰が夏でも氷雪をまとい、氷河を抱いていることと、氷河によって削られた大きな岩壁に山頂が囲まれているからです。それだけでなく、岩壁のすぐ下まで牧草地が見られることが日本アルプスとの大きな違いです。日本アルプスでは山腹も深い森林で覆われていることが多いのですが、アルプスでは人間が森林を切り開いて牧草地にしてきました。この牧草地が春から夏にかけて花が咲き乱れる別天地となり、牛や羊が草を食む光景が遠くの白き峰とマッチして絵のような風景を作り上げています。

このような牧草地が広く山麓に作られたのは、アルプスの気候や地形では稲作や畑作をすることができないこと、また、岩壁のすぐ下には傾斜の緩い斜面があって日本のようなV字谷を形成せず(標高の低い所には見られる)、谷底が明るく開けたU字谷となっていて土地利用がしやすかったこともあります。また、ヨーロッパは自然を克服する対象として捉え、日本では里山に見られるように自然からの恩恵を受けながら農作業をしていた文化があります。里山を保全することによってそこから燃料となる薪を得たり、ブナやナラの林を守ることによって農作業に必要な沢を守ったりと、自然と人間との共生が日本の文化だったのです。それが近年はヨーロッパで自然保護の先進国、日本はまだまだ後進国と立場が逆転してしまったのは非常に残念なことです。

話を本題に戻しますと、人間を厳しく拒む氷雪の世界と、緑のアルプがはっきりと分かれるアルプスに対し、日本アルプスは山腹が急峻なために森林を残しているところが多く、懐がアルプスよりも大きい印象です。また、アルプスのように牧草地に咲く花ではなく、純粋に自然の中で行き続ける高山植物は群落の規模ではアルプスに劣りますが、その種類や稀少価値、可憐さは引けを取りません。

アルプスの名花、エーデルワイス

アルプスの名花、エーデルワイス

日本アルプスの高山植物コマクサ

日本アルプスの高山植物コマクサ


このようにアルプスと日本アルプスは、同じアルプス(?)でも大きな違いがあります。そして、歩くときにこのような違いを見つけていくことは、意外と面白いものです。それが両者の気象条件や地形、文化の違いなど非常に奥深いものだけに突き詰めていくときっと深みにはまってしまうことでしょう(笑)。帰国後、日本で山歩きをするときに、アルプスの自然と比べればきっと何かの発見があるはずです。

文責:猪熊隆之

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